2025.11.18

グリーン素材・製造業(低炭素プロダクト)「素材を変えること」が産業GXの中心に

グリーン素材・製造業(低炭素プロダクト)「素材を変えること」が産業GXのど真ん中になってきた

産業部門のGX(グリーントランスフォーメーション)というと、 省エネ設備への更新や再生可能エネルギーの導入といった「エネルギーの置き換え」に 注目が集まりがちです。しかし、実際には製品そのものを形づくる 「素材を変えること」こそが、産業GXの中核テーマになりつつあります。

鉄鋼・アルミ・セメント・化学・プラスチック・ガラスなどの基礎素材は、 多くの産業の上流に位置し、サプライチェーン全体のCO₂排出に与える影響が極めて大きい存在です。 そのため、素材の生産プロセスを低炭素化することに加え、 軽量化・高耐久化・リサイクル性向上などを通じて、 「素材レベルからプロダクトの環境性能を変えていく」動きが加速しています。

以下では、グリーン素材・低炭素プロダクトをめぐる現在地を、

  • ① 政策・市場環境
  • ② 産業構造・バリューチェーン
  • ③ 技術・ビジネスモデル
  • ④ 人材・ケイパビリティ

の4つの観点から整理し、最後に今後の主要な論点を展望いたします。


1. 政策・市場環境:プロダクトカーボンフットプリントの時代へ

まず押さえておきたいのは、GXの議論の焦点が 「工場全体の排出量」から「製品一つひとつのカーボンフットプリント」へと 移りつつあることです。これは、エネルギー起源のCO₂だけでなく、 素材の選択やプロセスの違いが、最終製品の環境性能を左右するという認識が 広がってきた結果だといえます。

  • プロダクトカーボンフットプリント(PCF)やライフサイクルアセスメント(LCA)の導入により、 素材の種類や調達ルートごとのCO₂排出量を「見える化」する動きが強まっています。
  • カーボンプライシングや国境炭素調整措置(CBAM)的な枠組みの広がりにより、 高炭素素材のコスト競争力が相対的に低下するリスクが意識されるようになっています。
  • 自動車・家電・建設・インフラなどの最終製品メーカーが、 調達方針の中に「低炭素素材」「リサイクル材」「サステナブル素材」の採用を 明示するケースも増えています。

こうした政策・市場環境の変化は、 「製造業のGX=工場の省エネ」という従来のイメージを超え、 「どの素材を、どのプロセスで、どう組み合わせるか」という設計レベルの議論を 前面に押し出す要因となっています。


2. 産業構造・バリューチェーン:「素材メーカーだけのテーマ」から「連鎖するGX」へ

グリーン素材の普及は、素材メーカー単独では完結せず、 加工業・部品メーカー・最終製品メーカー・ユーザーまでを含む バリューチェーン全体の構造変化を伴います。

基礎素材メーカーの役割変化

鉄鋼、アルミ、化学、セメントなどの基礎素材メーカーは、 これまで「規格を満たした素材を安定供給すること」が主な使命とされてきました。 現在はそれに加えて、「低炭素版のグレード」「リサイクル材を一定比率で含むグレード」など、 環境性能で差別化されたラインナップを提供することが求められています。

加工・部品メーカーの対応

鋼材加工、樹脂成形、複合材加工などを担う中間加工業は、 新しいグリーン素材の特性を理解し、加工条件や設計ルールを最適化する役割を担います。 素材が変われば、強度・耐久性・成形性・コストなどのバランスも変化するため、 従来の前提を見直す必要が出てきます。

最終製品メーカー・ブランドオーナーの調達戦略

自動車、機械、家電、建材などの最終製品メーカーは、 調達ポリシーや設計指針の中に「低炭素」「循環性」「リサイクル材比率」などの 要素を組み込み始めています。これにより、サプライヤーにも同等の取り組みが波及し、 バリューチェーン全体でのGXが促進されます。

リサイクル・資源循環事業者との連携

グリーン素材の文脈では、製造プロセスだけでなく、 使用後の製品からどのように原料を回収し、 再び素材として循環させるかも重要になります。 素材メーカー・製造業・リサイクル事業者が連携し、 「設計段階からリサイクルを前提とする」取り組みが広がりつつあります。

このように、「素材を変えること」は、 特定の企業だけではなく、産業全体の構造と関係性を変える行為であり、 まさに産業GXのど真ん中に位置するテーマになっていると言えます。


3. 技術・ビジネスモデル:低炭素化・軽量化・循環設計の三位一体

グリーン素材・低炭素プロダクトの領域では、 技術とビジネスモデルの両面で多様なアプローチが進んでいます。

  • プロセスの低炭素化
    製錬・焼成・化学反応など高温プロセスの電化・水素利用・CCUS(回収・貯留・利用)などにより、 素材製造時のCO₂排出を大幅に削減する技術開発が進んでいます。 これにより、「同じ仕様だがカーボンフットプリントが小さい素材」が登場しつつあります。
  • 素材そのものの転換・高度化
    高張力鋼材・軽量合金・繊維強化複合材・バイオ由来素材などを活用し、 製品全体の軽量化・高耐久化を図ることで、 使用段階のエネルギー消費を削減するアプローチも重要です。 例えば、輸送機器や建材における軽量化は、ライフサイクル全体のCO₂削減効果につながります。
  • リサイクル材・副産物の高度利用
    スクラップや副産物を原料として活用し、 一次資源の使用量と排出量を抑える取り組みも活発化しています。 リサイクル材の品質安定やトレーサビリティの確保は、 グリーン素材としての信頼性に直結するため、重要なテーマです。
  • 製品・サービス設計の変革
    モジュール化や長寿命化、リペア・リファービッシュ前提の設計など、 素材の使い方そのものを変えることで、 生涯を通じた環境負荷を下げるビジネスモデルも注目されています。 素材メーカーが設計段階から関与し、「素材+設計+サービス」を セットで提案するケースも増えています。

これらの取り組みは単独で完結するものではなく、 「どの素材を、どのような製品・サービスとして市場に届けるか」という バリューチェーン全体での設計を伴う点が特徴です。


4. 人材・ケイパビリティ:「素材×設計×市場」をつなぐ視点

グリーン素材・低炭素プロダクトを推進するうえでは、 従来の素材開発・製造技術に加え、 設計・マーケティング・サプライチェーンの視点を統合する人材・組織が不可欠です。

1. 素材・プロセス技術人材

金属・化学・セラミックス・ポリマーなどの専門性に加え、 エネルギー効率・排出原単位・LCA評価といった観点から、 プロセス全体を再設計できる人材が求められています。 実験室レベルだけでなく、商業規模でのスケールアップ能力も重要です。

2. 製品設計・エンジニアリング人材

新しい素材の特性を理解し、構造設計・安全性・コストを踏まえたうえで 製品に落とし込む設計者の役割は、これまで以上に重要になっています。 軽量化・耐久性・リサイクル性など、複数の要件を同時に満たす設計力が問われます。

3. 調達・サプライチェーンマネジメント人材

調達コストだけでなく、カーボンフットプリント、リサイクル材比率、 トレーサビリティなどを評価軸に組み込む「GX型調達」の設計が求められています。 サプライヤーと中長期的なパートナーシップを構築し、 共同でグリーン素材への移行を進める役割を担います。

4. ビジネス開発・マーケティング人材

グリーン素材・低炭素プロダクトの価値を市場にどう伝え、 どのセグメントでプレミアムを受容してもらうかを設計する人材も重要です。 B2Bの領域では、顧客のサステナビリティ戦略や調達方針を理解したうえで、 共創型の提案を行う能力が求められます。

これらの人材が部門横断で連携し、 「素材×設計×市場」を一体として捉える組織ケイパビリティを構築できるかどうかが、 グリーン素材・低炭素プロダクト戦略の成否を左右します。


5. 今後の論点:「性能・価格・環境」の三立をどう実現するか

グリーン素材・低炭素プロダクトの普及に向けては、 今後、次のような論点が一層重要になっていくと考えられます。

  • 従来素材と比較した際の「性能・価格・環境価値」のバランスを どのように設計し、市場に受容してもらうか
  • 原料制約やエネルギー価格の変動を踏まえた、 グリーン素材の安定供給体制をどう構築するか
  • LCA・PCFなどの評価手法をどこまで標準化し、 企業間や国・地域をまたいだ比較可能性を高めるか
  • グリーン素材へのシフトに伴う設備投資・研究開発投資を、 どのようなファイナンス手法・パートナーシップで支えるか
  • 素材の低炭素化と、サーキュラーエコノミー(資源循環)の取り組みを どのように統合的な戦略として位置づけるか

「素材を変えること」は、一見すると技術的なテーマに見えますが、 実際にはサプライチェーンの再設計、ビジネスモデルの転換、 人材・組織の変革を伴う、産業GXの核心的なテーマです。

各プレイヤーは、自社がバリューチェーンのどの位置にあり、 どのようなグリーン素材・低炭素プロダクト戦略を取ることで 競争力と持続可能性を両立させるのかを、今まさに問われていると言えます。